掌編小説『しゃしんの女』 〜上〜/朝原 凪人
 
な、雪の中で血液のように紅く映えるいくつもの花弁に。

「バラが……それに」

従者がいるのだろう外壁を境にしてその区画だけ丁寧に雪を退かされたバラ園には凍てつくこの季節でもなお紅色のバラがその花を咲かせていた。そしてそこに一輪だけバラではない季節はずれの小さな白い花が。あれは、確かケシ。 

「不思議でしょう。この季節にケシが咲いているなんて。私がアレを捨ててからかしら、突然芽吹いたのよ。花言葉はご存知?」

「……忘却」

「本当、わたくしに似つかわしい花でしょう? 最もわたくしが忘れ去ったのは記憶ではございませんけれど」

「どうして、捨てたのですか?」

 かつ
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