掌編小説『しゃしんの女』 〜上〜/朝原 凪人
なってようやく凍った地表を見ることができるの」
下の世界。言葉自体に幾らか含まれていそうな侮蔑という感情をしかし、その声からは感じ取ることが出来なかった。四方に人々が暮らす町を見下ろす、荘厳なる白亜の巨城。白の雪の世界にあってなお白い外観と、赤と金を基調にした内装は、かつて王族というものが絶大なる力を持っていた歴史をそのままに残していた。もしかしたら、それは雪が時間を閉じ込めているからかもしれない。
腕にはめた時計に目をやる。この城に入ってからまだ5分も経っていない。やけに時の流れが遅い。やはり。
私は視線を時計からもう一度窓の外に戻した。白いカンバスに赤の絵の具を散らしたような、
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