掌編小説『しゃしんの女』 〜上〜/朝原 凪人
 
ど、そうねぇ、アレを捨ててから少なくとも十二回の冬が来て、十一回の雪解けがあったかしら」

 ご覧なさい――女は首の上に乗った顔のようなものを、本来顔と呼ぶべきものを、大きな窓の方に向けた。
 三階部分にあるこの部屋から見えるのは、立ち枯れた木々とその木の幹の部分を隠してしまうほど高く、深く積もった、白い雪。それは私が外を見ている間にも止むことなく世界を覆っていく。都会で降るような儚さは持ち合わせてなく、世界の色と音を吸い尽くし、そこに流れる時間さえも閉じ込めてしまう、閉鎖意識の集合体のような重たい存在感を放っていた。

「ここの雪解けは遅いから、そう、下の世界では夏と呼ばれることになっ
[次のページ]
  グループ"掌編小説『しゃしんの女』"
   Point(1)