掌編小説『しゃしんの女』 〜上〜/朝原 凪人
 
 暖炉が凍った身体を幽かに融かし始めた。

「いつだったかしら? アレを捨てたのは。もうあんまり憶えてないんですの。だってそうでしょう? 必要なかったから、大切ではなかったから捨てたんですもの。そんなもののこと、いちいち憶えてなんていませんわ」

 玄関で出迎えられたときのまま女は無表情に語った。いや、無いのは表情ではなく顔そのものかもしれない。私にはどうしても女の顔を認識することができなかった。
 薄い水色のドレスには煌びやか装飾。イヤリングなど宝飾品も贅の限りを尽くしているように見受けられる。その中にあって首から掛けたペンダントだけはどこかチープな雰囲気があった。

「ですけど、
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