掌編小説『しゃしんの女』 〜中〜/朝原 凪人
のものではないその暗闇のごとき眼に。
「あの人は旅人でした」
女は闇色の瞳を首から提げたペンダントに向けた。女が滑らかにそれを開くと中には、髪の質を見る限り今よりも十年以上は若い女と、そして男が写っていた。私は再び息を呑んだ。それは先ほど女が語った通り私にそっくりな男だった。眼を除いて。眼だけは私の隣にいる、写真の男の隣にいる女と同じ澱みすらない深い闇の瞳をしていた。
「わたくしがアレを捨ててから、幾年かが過ぎたときのことだったと思います。夏でした。彼は、放浪の旅の途中この国を通り、当時の国王であったわたくしの父へ謁見に参ったとのことでした。それが出会いを大切にする旅人の礼儀な
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