掌編小説『しゃしんの女』 〜下〜/朝原 凪人
せんでした。一度捨てた心をもう一度取り戻すなんて」
意識がまた酩酊し始めた。久しぶりだというのに勢いよく煙草を喫みすぎたか。それともバラのせいだろうか。視界が僅かにぼやける。
「彼は言いました。『君を愛してしまった。僕は愛を知ってしまった』と。そして彼は続けました。それは決して口にしてはいけない言葉でした。そんなことをすれば彼もどんな結末を迎えることになるか解っていたはずなのに。『君にも心を取り戻して欲しい僕を愛して欲しい』」
今度は女の声が遠くなった。このまま眠ってしまいそうだ。
「当然私は断りましたわ。だって、やっと生き易くなったのに。また心を取り戻すなんて。それも
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