「ありがとう」と言わせない/ベンジャミン
何かを身につけて去ってゆく
「ありがとう」と言われることが
本当は辛くてたまらない
教えたいことはたくさんあった
まだまだ彼は未熟で
まだまだ彼は可能性に満ちている
口を突いて出てきそうな言葉を
何度となく奥歯で噛みころした
そう
はじめから
教えることなど考えもせず
彼がどうやって成長してきたのかを
僕はただ伝えてやっただけなのだから
これからも彼は立派に成長してゆくだろう
「ありがとう」なんて言わせたくなかった
そんなふうに育ててしまったなら
僕は僕として失格なのだ
だから僕のもとを去ってゆく彼を
僕は見送ることもなく去る
去ってゆくのは
きっと自分の方なのだと
彼の背中に
どうか一対の翼があることを信じて
僕はまた新しい生徒たちに
その意味だけを伝えようとする
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