春の分泌系/塔野夏子
光は淡い
私は愁いを分泌する
花が咲いている
白の黄の 紫の花が咲いている
私は愁いを分泌する
ちいさい蝶たちも舞っている
私の目には見えないけれど
きっとちいさい精たちも
この空中を飛び交っているのだ
私は愁いを分泌する
だから春がにじんでゆく
白の黄の 紫の花も
ちいさい蝶たちも輪郭をにじませる
やがて西へ沈みゆく陽も
東からのぼる月も
とめどなくにじみながら
私の分泌する春の愁いに溶けながら――
いやそうではなく
春が分泌しているのかもしれない
私という愁いを
いずれにせよすべては
愁いに ただ溶けゆくばかり
ちいさい精たちが その中に
うっすらと狂気を まき散らしてゆく
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