春の丘/塔野夏子
 
春になるとあらわれる
円い緑の丘がある

その丘はいつも
すこし遠くにあらわれる
だからそのてっぺんに吹く風を
わたしは知らない

その丘の上の空は
昔に書いた詩たちが
掠れて消えていったような空だ
過ぎ去った誰かの
微笑みのような空だ

丘はその空の下に やわらかな沈黙として
たたずんでいる 春が終わるまで
いつもすこし遠くに――




   グループ"春のオブジェ"
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