「静かの海」綺譚 (1〜10)/角田寿星
1
「静かの海」に移り住んで五年
いつしかぼくは
ブロード・ビジョンに映される
地球の姿を見続けていた
何も入っていない写真立てを
そっと伏せる
ゆっくりと死んでいく巨鯨の胃袋
ドームに掛かっていた
紫色の帳が消滅し 朝がやって来る
人影が途絶えて久しい
静かな朝だ
タービンの微かな音だけが響く
ぼくは部屋のなかでソファに横たわり
あおい地球の映像の中に
幻影のあなたの姿を探している
2
月面庭園の草花は
朝になると芽吹き
昼には背の低い花を咲かせる
(永遠の獏がそれを喰らいに来る)
夕暮れに枯れて
土に還る
ぼくは
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