「静かの海」綺譚 (1〜10)/角田寿星
くはその瞬間が好きだ
3
地球のニュースは
もうぼくの耳には入らない
諍いは極限まで縮小され
笑顔の美男美女が同じ言葉を連呼する
ぼくの声は届かない
何も言わない
ただ地球の映像だけ
眺めていた
4
「静かの海」の隕石対策として
無人のブロックが封鎖され
硬化剤が注入された
あなたとの想い出の場所は
こうして永遠に失われた
5
精密に区分けされた蜜柑の駅
嘗ては人に溢れた薄暮の待合室で
ふと右手が暖かくなり ぼくは
あなたへの手紙をしたためる
胸を突いてでる言葉は
あなたへの望郷の念ばかり
満開の夜の桜を思
[次のページ]
前 グループ"「静かの海」綺譚"
編 削 Point(14)