夏に還る/塔野夏子
また夏がめぐり来て
空も緑も色深まり
光と影が幻のようにあざやかに世界を象っています
夏の花々も色が強く
私には似合わないのです
降りそそぐ眩(まばゆ)さと熱にも
ただただ圧倒され
日傘の下をひっそりと歩むばかりなのですけれど
それでも夏は
ほかのどの季節よりも
深くそして濃やかに
私に浸透してくるのです
そして私は皮膚のうちがわから幾重にも
夏に還ってゆくのです
夏という季節
それこそが私の原風景なのです
(真夏にだけ見える
空中にたゆたう昼の銀河……)
日傘の陰から
花々を見あげ 緑と空を見あげ
幾重にも夏に還りつづけるそのことを
ただただ嬉しく 味わうばかりなのです
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