果実の名前/塔野夏子
 
夜明けの窓は孔雀色
今年もまたうたうように
アガパンサスが咲いている

七月はわたしの中で
いちばん甘く実る果実
君はいつかそれを 別の名前で
呼んだかもしれない

少しずつ風がうごきはじめると
あの汀への道をおもいだす
あのとき交わした言葉たちは
かたちのない傷を内包した
やわらかな立体星座となり
いまもなかぞらでまわっている

告げたいことはいまも
そこからさざめくように零れてくる
孔雀色の夜明けの窓の向こうに
うたうようにアガパンサスの花は咲き

あのときから
七月はわたしの中で
いちばんうるわしく実る果実
君はいつかそれを 別の名前で
呼ぶのかもしれない
あの汀への道を
またふたたび辿るならば




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