難破した船の来歴/岡部淳太郎
 

  いるのか。陸地が恋しいとみんな不平を
  言う。

  われわれは奇蹟を見た。あれはまぎれも
  ない陸地である。何と久しぶりに見る陸
  地。何年ぶりに見るのか。波よ、この壊
  れた船をあの砂浜まで運んでくれ。


若者の勇気は突然にして挫かれた。船室のひ
とつから猫が迷い出て来て、若者を誘導する
ように歩いていった。若者がその後をついて
ゆくと、甲板の陰、陽の当たらない場所に、
人のもののような骨格が横たわっていた。恐
る恐る近づいて見ると、それは人のようでは
あるが人ではない、異形のものの骨だった。
長く伸びた爪と牙、額の部分だけが飛び出た
頭蓋骨、
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  グループ"散文詩"
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