難破した船の来歴/岡部淳太郎
ったか。
機械室からエンジンが停まったとの連絡。
潮流に乗るだけの航海は侘しいものだ。
漂流、ただの漂流。
波はいよいよ高く、舳先を凶暴に洗いつ
づける。ただの漂流の悲しさ。エンジン
復旧の目処は立たない。
二等航海士のひとりが奇妙な熱病で倒れ
た。船室でずっとうなされて寝ている。
海の底のまぼろしを見ているのだと言う。
縞模様の奇怪な生物が左舷の方向に見え
た。あれは何であるか。病に倒れた二等
航海士の、海の底のまぼろしと関係のあ
るものであるか。
虚しい漂流。われわれはどこに向かって
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