「まあだだよ」/大町綾音
は友人たちの輪からは外されて、ひたすらに一人の時間を過ごしていた。
何を──ということもない。わたしは内田百?の「ノラや」などを読んでいて、福武文庫からは「まあだだよ」の原典となった「まあだかい」も出版されていたはずだ。
「まあだだよ、観に行こうよ」
それは、友人からの突然の私信(葉書)だった。
「きっと、面白いよ」と思うと同時に、わたしはそれが黒澤明の遺作になるような気もしていた。1993年の作品で、だとしたら、当時わたしは21歳だったのだ。精力的に作品を発表しているようではあっても、氏の作品は数年前から変化が萌していた。「まあだだよ」、そこにドラマはあったろうか、いや、なかったのだ
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