前田見知子さんという画家/大町綾音
 
、ガラスに絵の具を塗って、上から紙を押し当てて」
「それで、一枚だけできるんですか?」
「そう」
 おおむね、そんな会話だったか。

 そもそも、わたしが彼女と出会ったのは、二十二歳か二十三歳の秋のことである。
 そのころ、わたしは京都で画廊巡りをして(今では、ギャラリー・ストーカーなどと言われるようなのだが)、新進の画家たちや学生画家たちと話す、ということを続けていた。
 そんななかで、前田見知子氏は珍しく完全にプロの画家だった。と言っても、雑誌やテレビなどで紹介されたことはあるものの、画業での収入は、年数回ほど個展を開くことで、ガラス代や油彩絵の具代といった画材の費用をまかなうの
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