その日は桜の花が咲いていた/岡部淳太郎
 
の死を映し出す鏡のようだった。
 今年ももうすぐ春になる。もうそろそろ桜の花が咲くだろう。あなたが桜の季節に死んでしまったので、その年の桜が咲くのが早いか遅いか、あなたの命日を基準にするようになってしまった。その基準からすると、今年の桜は少し遅いみたいだ。咲いてはすぐに散る桜の花にいまもあなたの死を重ね合わせながら、僕たちはいまもこうして生きている。遺された者として生きている。あなたが渡っていった向こう側がどんな様子なのかわからないけれど、そこでも桜の花が咲いているのだろうか。もし咲いていなければ、向こう側からこちら側をちょっと覗いて、いつものバス通りの桜並木で花が咲いては散る様子を眺めてみたら
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