批評祭参加作品■喪服の者たちが向かうところ/岡部淳太郎
思う。ところが翌日になって、報せを聞いた叔母と従姉妹の二人が家にやってきた時に激しい悲しみに襲われた。親戚とはいっても普段は離れた場所に住んでいてほとんど顔を合わせることのない彼女たちの前で、私は激しく泣いた。通夜や葬儀の時はそれを滞りなく進めるのにせいいっぱいで悲しんでいるゆとりはなかったが、日にちが経って普通の日常に戻った時に、ふっとフラッシュバックのように悲しみが舞い戻ってくるという体験を何度もした。電車に乗っていて乗客たちを眺めている時に、ああ、この人たちは俺が妹を亡くしたばかりだということを知らないんだ、俺の妹が死んでも世界は変らずに回りつづけているんだと思ったり、当時勤めていた会社で仕
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