霧(ミスト) (連作7)/光冨郁也
 
 女はわたしといっしょに海の中に入りたいと言った。女には尾びれがあり、わたしには足があった。わたしたちはあのとき、海に入っていった。女が先に進み、わたしは後ろからついていく。波が胸元まで来たところで、手を握りあい、先に進んだ。波は繰り返しやってくる。小雪はやみ、霧に変わった。
 気づけば、わたしはまた病院のベッドの上にいた。
「  さん、あなたは漂流していたのよ」
 看護師はそう言って笑う。
 診察室で医師と向かいあう椅子から、外を眺めていた。わたしは島の近くを漂流していたらしい。その話を医師から聞いた。マーメイド海岸から船で一時間ほどの距離。歩いては渡れない。
 看護師は、体温計を持っ
[次のページ]
   グループ"散文詩「バード連作集1・2・3」"
   Point(9)