面接(6)/虹村 凌
ョンの3階にある自室のドアを開けると、溶けたバターのような重たい湿った空気が広がっていた。後ろ手でドアを閉め、チェーンをかける。ジャケットを椅子の上に放り投げて、ハンガーに掛かったタオルを手に取ると、脱衣所の方から物音が聞こえた。
「あ?」
脱衣所のドアノブに手をかけた時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「見てもいいけど、ゲンナリするよ?」
「はァ?」
片方は女の声、もう片方は、俺の声だった。
「だって私、ガリガリで肉付き悪いし。萎えるよ」
「萎えねぇよ!」
俺はドアノブを廻し、ドアを勢いよく開けた。電気のついていない真っ暗な脱衣室の真ん中に、俺は立ち尽くしていた。脱衣所の電気をつけて、風呂場のドアも開けたが、誰もいなかった。脱衣所のドアに叩き付けた拳がズキズキと痛む。何度も、何度も叩き付けた。擦り剥けた拳から、血がうっすらと滲み出ている。
「静かにしろよ!」
壁の向こう側から隣の住人が壁を叩き返してきた。
「うるせぇ!」
俺は壁にケリを入れると、思い切り蛇口を捻って、浴槽にお湯を張る準備をした。
前 次 グループ"面接"
編 削 Point(1)