風のオマージュ その8/みつべえ
 
らである。いま思うと児戯にもひとしい、しかし、かけがえのない一時期であった。それでも、さすがに何を書いたらいいかは他人に訊くべきことではないと思うくらいの分別はあった。現在を過ぎてゆくことでしか固有の言葉を持ちえない境遇と年齢のなかにいるのだからと、当時の私はしゃらくさくも考えていた。歳をとれば、そのうち嫌でも何か書けるようになると、さかしらに思っていた。
 だがその反面、この若い発言者の質問は私の質問でもあった。
 答は。石原吉郎は応えて、こう言った(はずだと私が思いこんでいる)
「私は自分のことしか語れない」
 たしかに彼はこう言った(はずだ)。その言葉はかたくなな調子で私の耳の奥底に
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