風のオマージュ その10/みつべえ
 
☆萩原隆詩「氷海」の場合




白い皿の上で
蟹を解体する

節という節をへし折り
甲羅を割り
白い肉をせせり喰う
朱金色の脚の内側を裂き
固いはさみを砕き
脳味噌をひらき
蟹の爪で蟹の肉をせせり喰う

雪の気配がする
遠く暗い海を想う

蟹の執念が
潮の匂いを放つ
ばらばらになった
蟹の殻が復原して
ざわりと動きだす

蟹は歴然とそこに在る

     
     ※詩集「氷海」より「蟹」




 七〇年代初頭の正月、斜里町の営林署に勤めていた父が帰ってくるなり「ほい、読んでみれ」と私に手渡した本が詩集「氷海」だった。おそらく
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