白熱 リバース/佐々宝砂
よ
地表より遠きここにも風はあり流れてやまぬその硫黄臭
灯りひとつ掲げて岩の壁に吹く唾液に粘る赤土のいろ
赤土で記すこの歌だれひとり知らぬとしても読まぬとしても
灯り消して目の前におくたなごころ見えぬ身体は存在するか
石膏の結晶のなか閉ざされて不在の人に捧げる欠片
4.
岩壁に吹きつけた唾液混じりの赤土が、
ぼんやりと曖昧な掌の輪郭線をかたどる。
酸素不足のせいだろう、
俺は次第に意識が遠くなってくる。
俺の身体は全身で危険を感じている。
鎖を繋がない俺という生命にも、
繋がないなりに生命の潮があって、
その潮は俺を生かしておこうとす
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