連作「歌う川」より その2/岡部淳太郎
自らの秘密を語った
――俺には見える。こうして橋の真下に坐ってい
ても、橋の上を通る人々の姿が
男は実際に橋を透視出来るかのように
そこを通る人々の姿を
克明に語った
――橋の下は、俺の聖地だよ。この暗黒が好きな
んだ。だが、時々ふっと思うことがある。こ
んな影としか呼べない借り物の暗闇ではなく、
本物の暗闇の中に入りこみたいとね。
男は橋を渡る女たちの
スカートの中だけでなくその奥の
子宮の暗黒までも
見透かすかのように 語った
――実際に俺は、橋の下で生まれ、橋の下で育っ
てきたんだ。俺は人間だが、人間じゃない。
俺の中には魔物の血が
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