連作「歌う川」より その2/岡部淳太郎
 
血が混じっているんだ。
突然 男は
祈る人に向き直り
挑発するように微笑んだ
――教えてやろうか?
祈る人は何のことだかわからず
曖昧にうなずいた
眼の前で流れる川の音を聴きながら
――待っているんだ。
待っている?
いったい何を待っているというのか
祈る人の頭は混乱した
その時 彼の中からすべての歌の旋律も
祈りの言葉も
一瞬だけではあるが 消え失せた
――云っておくが、女だとか、友達だとか、そん
  な当たり前のものを待っているんじゃないぞ。
  かと云って、ここにぼんやり坐って、ひたす
  ら死ぬのを待ちつづけているのでもないぞ。
人を待っているのでも
[次のページ]
   グループ"歌う川"
   Point(6)