連作「歌う川」より その2/岡部淳太郎
よ
囁きを
無意識のうちにもらした瞬間があったにせよ
祈る人の確信は変らない
永劫不変の
宇宙である
そして川の中では今日も
生きた魚が流れてゆく
そんな
川べりの日々である
川は
大量の生きた魚を
大量の眠ったままの石を
押し流して流れる
涸れることのない
生の水路
だが今日
祈る人がたたずんで見つめる川面に
死んだ人間が流れてゆく
そんな
川べりの一日である
記憶の重みに押しつぶされたのか
記憶を探しあぐねて狂ったのか
かつてひとりの人
であったその物体は
いまは明らかなひとつの死体となって
水に汚され
水に洗われ
流れて
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