連作「歌う川」より その2/岡部淳太郎
人はふらふらと立ち上がり
男に一礼して歩き出した
歩き出しながら
祈る人は思った
本当は
俺も
待っているのかもしれない
あの男のように
自分でもわからない 何かを
男に教えられた廃屋は
橋からさほど離れていないところにひっそりと
建っていた
ここから橋は見えるが
男の姿はもう 見えない
あるいは橋の下の闇に
まぎれてしまったのかもしれなかった
祈る人は
廃屋の中に入った
廃屋は彼を待ち受けていて
その中は子宮よりも暗く
ずっと
広かった
川の書
これは、川畔に立つ廃屋で祈る人が見つ
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