連作「歌う川」より その4/岡部淳太郎
これまでにも何度かあったが
そんな時でさえ「彼」は
眠りから目を醒ましつづけてきたのだ
眠りの中にある時
「彼」は
この宇宙にあまねく存在する人々の
声を夢に聴いている
それは水のような悲しみ
または火のような怒り
または風のような笑い
または土のような孤独
「彼」は聴いていたのだ
人々の声を確かに受け止めて
それを彗星に乗せて
彼等のもとへ送り返すために
そして「彼」は
祈りの声を聴いて目醒める
地上でまたひとり誰かが
その頬に涙を滴らせていた
五
何千
何万
何億
という水の分子が
この道を流れている
だが物質の数には限りがあり
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