恋文[207]
06/09 17:18
ワタナベ

恋文:親子丼

学食の親子丼に
卵の殻が入っていた
それはほんの小さなかけらだったはずなのに
君は昼休み中、入っていた卵の殻について
おおげさにさわいでいる
僕は聞いているふりをしながら
10年後の食卓について考えていた

主婦になった君は、きっと今と同じように
ほんの些細なことでおおさわぎして
食卓の僕も今と同じように
更に10年後の食卓について考えているだろう

たとえば年老いた僕が
10年後の食卓について考えたとして
つつましいその食卓の
僕の正面の席には
いつものおしゃべりな君は
もういないかもしれない

どうか眠るように死んでいく
いつかの君のその横で
固くその手を握ったまま
一緒に向こうへ行けますように

僕はあくびをしたふりをして
伸びをしたら
君は少しきょとんとしたあと
にっこりと笑ってそれからまた
卵の殻の話を始めた
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