廃人がポツリとつぶやく部屋14[715]
2016 12/23 16:43
こひもともひこ

 私は諸学に通じ、ギリシア語、ラテン語、数学、哲学、医学にわたり、ソレモソノ蘊奥ヲ極メテ精通したさる学者を知っておりますが、もう六〇になるこの先生は、二〇年あまりも(ほかの学問はうっちゃっておいて)、心肝を砕き、身を削って文法の研究に邁進しています。生きているうちに、八品詞を明瞭に区別する方法を確立さえできれば、さぞかし幸福なことでしょう。なにしろギリシア人もラテン人も、これまで誰一人として完全には定め得なかったのですから。誰かが副詞に属すべきものを接続詞だとでもしたなら、戦争を引き起こしてでも事を決しなければならぬと言わんばかりです。
 そのおかげで、文法学者の数だけ文法がある、というよりもそれ以上の数の文法があるわけですが、(略)。さてこの先生はどんなに蕪雑で退屈に書かれた文法書であろうと、何一つ見逃さず、ページをひっくり返しては隅から隅まで眼を通し、どんな馬鹿げたことであろうと、この文法学の分野で何か説を立てる者はいないかとの思いで、誰にでも嫉妬心を抱き、誰かが自分の栄光を先取りするのではないか、積年にわたる営々たる辛苦が無になるのではないかと、あわれにも恐れているのです。これを狂気の沙汰とおっしゃいますか、それとも愚の骨頂とでも? それは私にはまあどうでもいいことです、

『痴愚神礼賛』エラスムス/沓掛良彦訳 (中央公庫)

ああいかんいかんかこきゅうかこきゅうっていわれちゃういやん。
スレッドへ