新年早々の話
吉田ぐんじょう
帰り道
巨人が追いかけてくるので困った
新年早々
巨人に追いかけられるとは
何と因果なことであろうか
先が思いやられる
とりあえず
通りがかった神社に入って
巨人が通り過ぎるのを待った
背後でどしんどしんと
色々なものが倒れてゆく音が聞こえたが
世界の終わりとか滅亡とかこわいとか
そういうことは一切思いつかなかった
そういうことは1999年に考え尽くしてしまったのだ
さて
折角神社に入ったのだからお参りでもするか
と思い
賽銭箱の前に進み出た
生憎とポッケットの中には
サクマドロップスの缶しかなかったので
嫌いな薄荷ドロップを中心に
五つばかり選び出して
賽銭箱に投げ入れた
しかしながら
枠に当たってしまったのだろうか
幾つかは外にこぼれ出してしまって
でも
それはそれで花火のようできれいだった
煤けたような鈴をじらじらと鳴らす
特に決めていたお願い事も無かったので
よくよく考えた挙句
今夜のごはんはおでんがいいです
とお願いした
こんな簡単なお願いなら
すぐに叶うだろう
なんとなくすっきりとしたしよかった
振り返ると
信号機も横断歩道も自動販売機も
くちゃくちゃになってしまった道が見えた
こわいとかは思わなかった
歩きにくそうだとは思ったが
車は一切通っていなくて
信号ばかりが
律儀な小学生のようにぱちんぱちんと変わって
愉快な気分で
車道の真ん中を通って家へ帰った
帰ってから手を洗っていると
神社から付いてきたのだろうか
小人がきゃあきゃあ言いながら
洗面台に落ちてきて
ばしゃばしゃと水遊びを始めた
一人一人つまみあげて
よくよく諭してから表へ離した
巨人がまだそこらを歩いているのか
地鳴りのように家が揺れる
晩御飯はカレーだった
すこし埃っぽい味がした
やっぱ世の中うまくいかないなと思った