「エスプレッソ、トリプルで」
さくらいちご
私の彼は詩人である
ロマンチストな男の人はステキだと思っていたけれど、
実際に詩を書く男性に出会ったのは初めてのことだ
彼はデート中に立ち寄った喫茶店でも、お茶を飲みながら
一人の世界に入り、詩のような小説のような文字のつながりを
書いている
その横で私は本を読んだり、ショッピングの計画を立てたり
しているのだけど、彼が斜め上を見て何か考えたり、たまに
ノートをとじてボールペンをいじってみたりしている姿を
見ていたら、私も何か書いてみたくなった
一週間前にプレゼントされたボールペンの書き味も試して
みたいのだ
私も時々、書く手を止めて斜め上を見上げたり、周りにいる
人たちの様子を眺めたりしてみる
特に良い言葉が浮かんでくるわけではないのだけど、私の席の
上だけ照明器具がオレンジ・青・白の3色で可愛いということに
気付いた
椅子の背もたれが鋤を逆さにしたような形でおもしろい
女性の店員さんの髪にはお揃いのキャンドルのようなお花が
ついていることも発見した
なるほど
ふと横を見ると自分の書きものに一段落ついた彼が暇を持て余し、
自分のノートに名前を書いている
ひらがなで書かれた名前の上には?1年4組″
いつから1年生になったの? 春だものね
外は満開の桜とやわらかな陽ざしでいっぱいだ
私は詩人の彼女である