靴下売りと指人形
吉田ぐんじょう

つまさきが冷えるので
靴下を買おうと思って
鳥の格好をして表へ出た
別に態とではない
暖かそうな上着を着て
マフラーをきちきちに巻いたら
鳥の格好になってしまったのである
ためしに玄関マットの上で羽ばたいてみたが
勿論飛べなかった
着地するとき足をひねった
しょぼくれたような冬の太陽は
しにゆくもののまなざしに似ている

靴下は靴下売りが売りに来る
靴下売りは行商なので
電柱の陰などで
通りかかるのをじっと待っているしかない
来るときもあるし来ないときもあるが
今日は来そうな予感がした
空気が毛羽立っているような感じがしたからだ

電柱の陰に立っていると
くまの格好をした人が幾人も通った
今冬の流行はくまの格好なのかもしれない
鳥の格好をしたわたしは
見つかって捕食されないように
息を潜めて電柱とブロック塀の隙間に挟まっていた
ごく近くに
何度か温かな息遣いを感じたが
どうにか捕食もされずにやり過ごした
やがて三時のチャイムが鳴ったのでおやつを食べた
その辺に死んでいた虫を食べた

靴下売りは結局来なかった
日没になっても来なかったので
諦めて家へ帰った
門のところで誰かが落としたらしい指人形を
幾つか拾った
指付きだったら厭なので
逆さにして何度か振った
爪は幾枚か滑り落ちてきたが
指は入っていないようだったので
安心してポケットに入れた
指人形は好きだ
例外なく笑っている
その不気味さがいい

玄関マットの上で羽ばたいてみたら
今度は二センチ浮いた

家へ入って鳥の扮装をすっかり解いて
裸になってから
足の指に指人形をはめると
なんだか無闇に歩きたいような
うれしいような気分になったので
ストーブの周りをほうほうと踊りながら
数十回廻った
気が済んだら疲れたのでストーブを消して寝た



自由詩 靴下売りと指人形 Copyright 吉田ぐんじょう 2006-12-20 12:12:34
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