命の音
杉菜 晃


栗林沿ひの道を歩いて行くと

コツンと固い音が

地に弾けてやんだ

少し行くと

また同じ音がして

生きものめいて

転がつていくものがある

――栗の実――

柵の中を窺ふと

緑陰のをちこちに

茶褐色の生きものが

身を潜めて薄光りしてゐる



風があるのでも

栗鼠や鳥がゐるわけでもないのに

栗の実は

仲間と連絡を取り合ふでも

予告するでもなく

落ちてくる



静けさを破る

一瞬のかそけき命の音

一粒一粒は

自分の時を知つてゐて

高みから地へと降つていく



嫁入り娘のやうに

一生のうちで

最も艶めきながら






自由詩 命の音 Copyright 杉菜 晃 2006-11-10 12:47:30
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