路上
杉菜 晃


市場通りに一尾の魚が落ちてゐる
眼は赤く悲しげに潤み
視線を曇天へと彷徨はせる
そして
路面についたもう一方の眼は
闇の地の深みを透視してゐる

魚は期せずして
天国と地獄を
同時に見ることとなつた

魚よ 
数奇な巡り合せを 
嘆いてはならない
恵みは 
信じて願ふものに
必ず訪れるものだから

雷鳴につづいて雨脚しげくなり
魚は雨に打たれ 
見る見る銀色に輝いていく

時の間の後
尾鰭で地面を一打ちすると
魚は滝のぼりよろしく
雨脚に向つて翔のぼつていく
一路 
雲を突抜けた高みへ
海の青とは異なる青の中へ

だが
私が実際に目撃したのは
海上を水切りするやうに
沖へと駆けていく
蘇つた一尾の魚だつた




自由詩 路上 Copyright 杉菜 晃 2006-11-09 19:39:17
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