金木犀

わたしのからだが
一秒ずつ 剥がれて
浴槽の底に積み重なる

さわると
あかるい蛍光灯のように
熱く ひかり
はじかれたとおもうと
くたり と しおれた



彼のみぎはんぶんには、やせた女のひとが
居て、組まれすぎた指の、祈りのポーズで
いつもそこに佇んでいる。わたしは彼女の
指をはずそうと、するのだけど、張り付い
た、隙間、は、いっこうにやぶれたり、な
んて、は、しなくて、わたしはいつもすこ
し悲しい気持ちで居る。けれど、悲しい、
と言うと、彼女がもっと強固に、ひたむき
に、祈る、から、わたしは黙ったまま浴槽
に水を流す。そして剥がれる。一秒ずつ、
いちびょうずつ


ひからびた街が
金木犀のぶあつい匂いで
そおと浮きあがる

豆腐屋の猫が鳴いてる
ふゆの毛に変わりはじめた
まばらにあかちゃけた肢体を
ふくらませたり しぼませたり しながら
おなかの底から 鳴いてる



角砂糖を食べる。潜り込んだまちがいを、
溶かすように、あまい、くだける音をたて
て溶ける、角砂糖を食べる。砂糖にまみれ
た彼の指は、なにかを探している。くまな
く確かめるように、まちがいをゆるすよう
に、それから、とうとつに奪うように。彼
の指はなにかを探し出そうとする。やせた
女のひとが、布団に横たわるわたし、の、
ひだりがわ、を、見ている。その指は祈っ
ている。窓の向こう側で、猫が、鳴いてる。
おなか、の、底、から。


    (みなみからさらさらとあめのおと)



触れた
金木犀が
おれんじいろのぶあつい匂いをかおらせて
あかるい朝のじめんにやっと
溶けた
彼女は左眼で泣きながら
悲しい、と言った







自由詩 金木犀 Copyright  2006-11-02 04:33:19
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