生きるって何だろう
ajisai

僕は気がついたら独りぼっちになっていた
お父さんは何処かに行ってしまった
お母さんは病気で亡くなってしまった
引き取ってくれたおばあちゃん
優しかったおばあちゃんも病気で死んじゃった
親戚の人は冷たくて僕は施設に行くことになった
そんなことでその人たちをもう恨んじゃいないけど
とにかく僕は一人で生きていかなきゃならなくなった
施設の中に仲間がいるとはいえ
いじめっ子にいじめられないようにとか
自分で自分を守って生きていかなきゃいけなかった
辛い?
辛くなかったとは言わない
でも活きていく為には一人で頑張らなきゃ
どうしようもなかった
仕方のないことなんだ
僕は僕なりに頑張って生きてきた

でもね、幾ら頑張ったって
世の中で常に上手くやれるとは限らない
落ち込んだり、挫折したり・・・
とうとう心を病んでしまった

僕は一人やるせなさを感じていた
一人ぼっちの部屋で
孤独を噛み締めていた
さすがに涙が出そうだった

気分転換に出かけた夜の散歩
気まぐれに海沿いの道を歩く
月が明るくて潮の香りがして
しょっぱい潮風に包まれた
まるでそれは人生のしょっぱさの様で
僕を哀しい気持ちにさせた

涙を堪えて空を見上げると
そこには黒い翼の黒装束の少年が
宙に浮いてこちらを見ていた
少年の瞳は月の光のようで吸い込まれそうに
神秘的な力を感じた

少年が瞳の奥に悲しみを湛えているのを感じた
僕は思わず声をかけた
「どうして君はそんな哀しそうな瞳をしているの」
少年は涙を一粒ポロリと溢した
「あなたがとても寂しそうな顔をしているから
 僕はあなたが哀しんで生きているのを
 切なく感じたんです
 あなたは精一杯生きているのに
 傷ついて哀しんでいる
 僕にはそれが耐えがたく哀しいことに
 思えるんです」
少年の以外な言葉を聞いて僕は
堪えていた涙を次々と溢れさせた
「君のその言葉僕の心に
 とても響いたよ
 こうして偶然にめぐり合った君が
 僕の哀しみを哀れむのでもなく
 感じて一緒に哀しんでくれるなんて」
黒い翼の少年は僕の元に舞い下りてきて
ぎゅっと手を取って握りしめてくれた
「僕は何の力もない死神です
 あなたを迎えに来たわけではなく
 偶然に今あなたの哀しみを感じて
 ここに来たんです
 僕にできることは何もないけれど
 あなたの未来が明るくなることを
 心から祈っています」
少年の思いは強く握りしめてくれた手から
じんわりと伝わってきた
「ありがとう
 僕はまだ病んでいて完全に哀しみから
 抜け出すことはできないけれど
 きっと将来は明るいと信じて生きていく
 約束するよ」

僕は彼と別れた後もしばらく月を眺めていた
人間の心に同情する死神
不思議な少年
僕はひとりで生きてきたと思っていたけれど
きっと誰かが僕を今までも
支えてくれていたのかもしれない

そう思うとこれから先
僕は僕らしくあるがままに生きていきたい
そう強く思った
生きていくことに希望を持とうと





自由詩 生きるって何だろう Copyright ajisai 2006-10-30 23:56:33
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