夕凪河川敷
藤原有絵


淋しさが何処から生まれるのか

そのような話題が上ったとき

それらはすべて
河から生まれ
いずれも河童の仕業なのだ

そう言ったのは
この国の伝承を探究する男で
昔神田の書店で知り合った

彼 曰く

河から生まれた淋しさは
薄く空に溶けて
街を満たしてしまうらしい


だから

不用意に夕凪時の河川敷には
近づかないことだな

喰われるぞ


僕は伝承に対し
肯定も否定もしないが


未だ
河川敷で
淋しさに喰われた人間は知らない

ただ

時折
胸の焼けるような橙をみると

決まって河川敷で泣いている
誰かを目にする


はっとして
彼の胡散臭い言葉を

ぼんやり思い出すのだ




自由詩 夕凪河川敷 Copyright 藤原有絵 2006-10-17 23:18:51
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