稚内へ行って死のう
しゃしゃり

女にふられたので、
正確にいうと、これから女にふられるので、
稚内へ行って死のうと思った。
なんで稚内かというと、
日本地図を広げてみると、
いちばん遠いところがワッカナイだったからだ。
遠くへ行きたい。
日曜の朝の三十分番組のように。
俺はなるべく遠くへ行って死にたいのだ。
稚内からロシアに渡ってもよい。
漁船に密航して、ロシア人につかまって、
遠い美しい日本の女を思って銃殺されたい。
稚内から電話するんだ。
そしたら、あの子が、
なんでそんなとこにいるの、と聞くから、
それがよく、ワッカラナイんだよね〜と言いたい。
それで笑ってもらえなかったら、
もう死ぬ。
ああけっこう。
その程度の俺なのだ。
遠いところから、
とてもとても、俺は遠いところから、嵐の海を泳いできた。
オレンジ色のブイを目指して。
ブイにたどりつけば、
一体、それは島でもないのに、
ほのかな希望のように、
浮き沈みする小さな、
過去にしがみついていたいと思うのだ。
どこかからサロンパスの匂いがする。
俺はサロンパスなど貼っていない。
表を犬と散歩するばあさんの腰からの匂いかもしれない。
とにかく、俺は、
稚内に行く。
飛行機で行く。
どんなに寒いか知らない。
どんな匂いかもわからない。
天気予報は雨だ。
こんな秋にはサロンパスの匂いがする。
生きるというのは腰にサロンパスを貼るということだ。
稚内でいくら丼を食べたい。
いくら丼がなければ、ハンバーグでもよい。
昔、名古屋に遊びに行って、
札幌ラーメンを食べた。
何しにいったのかわからなかった。
まあそんなものだ。
俺はあの子に会いたい。
会いたくてたまらない。
近づけないので、強力な磁石の反発のように、
いちばん遠くまで行くことにする。
俺はロシア人になる。
ロシア人というのは、宇宙人みたいなものだろう。
俺は宇宙人になってもあの子を愛する。
ロシア語でそれを伝えたい。
稚内の人がロシア語をしゃべるとは思わない。
誤解だらけでごめんなさい。
アーケードで自転車を借りよう。
そして颯爽と、走ってみたい。
雨降らなきゃいいなあ。
どうでもいいけど、どうやって帰るつもりなんだろう、俺。
なんだか楽しみになってきたぞ。




自由詩 稚内へ行って死のう Copyright しゃしゃり 2006-10-17 19:51:43
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