ワンカップの夜
Heaven

ワンカップを自販機で購入した人間の
いったい何割が自滅しているのだ
タクシーの運ちゃんが
酔っぱらってませんよ、って
さっきから赤ら顔で小物入れからワンカップ
出したり入れたりなで回し
蓋の隙間の匂いまでかぐ
そのうちぺろぺろ舐めはじめて
お客さん、行き先どちらでしたっけぇー
と間違った角を曲がった
完全に酔いが醒めてタクシーを降りると
自販機があって
8列すべてにワンカップが並んでいるのを
叩いている奴がいる
きれいな刺繍のネクタイ男は
どっかで見たことがあるようなバッジをつけた
白髪だ
なんだ出てこないのか、と尋ねると
ぜんぶ押しても出てこない
と言い、自販機にもたれすがっている
金は入れたのか、きっと入れていないんだろう
こういう偉そうなおっさんは現金を持ち歩かない
たいていクレジットかツケだ、あるいは札しか持っていない
(そんなものはここでは通用しない)
札か
そのときサツがこっちへ歩いてきた
酔っぱらいスリと思われたか
ほとんど反射的に逃げたが
サツは追ってこなかった
それでも俺は走り続けた
やがて真っ暗な公園に入り、それでまだ走っていた
上着の両ポケットが重くたぷんたぷん揺れて
それがどうにも
ワンカップのような気がして
猛烈に走った


自由詩 ワンカップの夜 Copyright Heaven 2004-03-12 03:47:44
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