communication breakdown (7〜9)
アンテ


                      communication breakdown (7〜9)

  好物

デパートで
きみが買い物をしている間
休憩所で待っているうち
地階においしいジュース屋さんがあることを
ふと思い出した
いそいそと出かけて
プラスチックのコップを手にもどると
きみが待っていて
ふうん という目で
ぼくの手のコップを見た
きみに買ってきたんだと
言い訳したのが逆効果で
きみは大事そうに両手で持っていた
見慣れた紙袋を破って
ぼくの大好きな回転焼きを取り出して
全部で五つ
平気な顔で平らげて
さあ帰りましょう
ぱんぱんと手を払った
ダイエット中だったんじゃ
なんて
口が裂けても言えなかった


  自転車

一日自転車借り放題で
二百円のチラシを見つけたと言って
きみは朝早くに
ぼくを叩き起こして
手を引いて地下鉄三駅分も歩いて
はるばる貸し自転車屋を訪ねた
書類に記入する間
ぼくは何度も逃げ出すタイミングを伺ったけれど
絶妙な間合いで振り返ったり
しゃべりかけてくるので
とうとう一台の準備が完了してしまい
さあどうぞと
店員に背中を押された
それにしてもなんで一台なんだろう
思う間もなく
きみはさっさと後部の荷台にすわって
ほれほれ と
顎でサドルを指し示した
腹をくくって
勢いよくペダルをこぐと
三メートルも行かないうちに
バランスを崩して
二人そろって派手に転んだ
きみはアスファルトに大の字になって
莫迦ねえ
声が枯れるまで笑いつづけた
店員が右往左往していた


  十円玉

スーパーで買い物をして
受け取った小銭のなかに
ギザギザ付きの十円玉を見つけた
いつだったかきみが
集めていると言っていたことを思い出して
それ以来注意していると
思いの外たくさん手に入って
そのたび大切に取っておくうち
貯金箱がいっぱいになった
箱詰めにして
リボンをかけて
夕食のあと手渡すと
きみは目を輝かせて中身を取り出して
底のゴム蓋を取った
がしゃがしゃがしゃ
テーブルじゅうに十円玉が広がって
いくつかは床に落ちた
まあすごーいこれどうしたの大変だったでしょう
その先も延々と賞賛の言葉を並べながら
きみはひとつずつ
十円玉を指ではじいて
テーブルから落としていった
綺麗さっぱりなくなると
貯金箱を丁寧に掃除して
底のゴム蓋をつけて
奥の部屋から
ギザギザ付き十円玉の詰まった箱を出してきた
素敵な貯金箱ありがとう
きみは箱のなかの十円玉を
ひとつずつ貯金箱に入れはじめた




自由詩 communication breakdown (7〜9) Copyright アンテ 2004-03-12 01:44:55
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