沈丁花の夜
えのき



固い蕾の頃は
意地でも匂わなかったのに
少しほころんだと思ったら
もう漂わせている

誰かの鼻先を誘惑し
唇にも軽く触れ
甘すぎる香りで
胸の奥深くまでかき乱す

通りかかる誰もが理性をなくし
目を眩ませ
息も絶え絶え
逃げ出す者 立ち止まる者

惚れたらとことん
むしろ心中希望とばかり
沈丁花をかき抱いたある人は
香りの棘に刺され

もっと優しく
もっと穏やかにと願っても
沈丁花はどこまでも強烈で
快と不快の区別さえ付きはしない

香るばかりで姿のない夜
沈丁花の夜 春の夜
息を吸い 息を吸い 息を吸い
言葉もなく

固い蕾の頃は
意地でも匂わなかったのに
少しほころんだと思ったら
もう乱れてる




自由詩 沈丁花の夜 Copyright えのき 2004-03-12 00:50:19
notebook Home 戻る