夏がおわるころ
田中眞人

知らなかったんだ
きみが
料理の本を買ったのが
ぼくのためだったなんて

知らなかったんだ
きみが
あんなにたくさんの薬を飲んだのが
ぼくのせいだったなんて

知らなかったんだ
きみが
そんなふうに髪を結っているのが
ぼくのためだったなんて

知らなかったんだ
きみが
手首に赤い傷痕を作ったのが
ぼくのせいだったなんて

知らなかったんだ
ぼくたちうまくいってたんだ
知らなかったんだ
ぼくたちうまくいってたつもりだったんだ

知らなかったんだ
きみが
そんなにぼくのことを愛していて
きみが
そんなふうにぼくのことを愛していて

ぼくが
そんなきみを
知らなかったんだ

きみが
ぼくが知らなかったきみを
悲しんでいたこと
知らなかったんだ

知っていたことは
そんなきみが
それでもぼくの前で笑っていたこと

知らなかったんだ
ぼくがぼく自身を

知らなかったんだ
こんなにきみを愛しているぼくを

知らなかったんだ

知らなかったんだよ


自由詩 夏がおわるころ Copyright 田中眞人 2006-09-01 07:25:29
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