俳句の非ジョーシキ
佐々宝砂

ええと、俳句結社に入っていたり、俳句について勉強していたりする人は読まなくていいです。あくまで初心者向き、老婆心のお節介的文章。あのねそこのひと、ベテランは読まなくていいんですってば!

(ここより2004.12.24追記その1)
えーとまず本当に当たり前なことから書きます。俳句は、ふつう5と7と5の17音でできています。17文字ではありません。17の音です。目で見て数えるのではなく、口に出して数えましょう。(追記いったん終わり)

1.季語
季語は一句につき一つ以下、というのが基本。つまり季語はなくてもいいということ(季語のない俳句を無季俳句といいます)。一句にふたつ以上の季語があるのを「季重なり」といい、あまりよいこととはされません。ただし、春の運動会や、真冬のゴキブリのことを描きたかったりしたら、季重なりもやむをえないので許されます(「運動会」は秋の、「ゴキブリ」は夏の季語です)。さらに言えば何事にも例外はありまして、夏の初めに毎年どこかで見かける俳句「目には青葉山ほととぎす初鰹」は、季語をみっつも使った反則技にもかかわらず、人気が出て人口に膾炙しました。要は受ければ勝ちです(笑)。

2.空白
「なんとかや なんとかかんとか なんとかだ」という感じで、五七五の区切りごとに空白を入れている人をよく見かけます。あれは素人くさいし、間延びした感じになってしまうし、また空白の効果を使えなくするものなので、やめたほうがいいと思います。五七五の区切りではない部分に空白を開けると、読者に間をおかせて読ませる効果があります。たとえばこれは私の川柳ですが「海底が盛り上がる あれが曾祖祖父」。「盛り上がる」のあとにわざと間をおいてます。多少字余りの句なのですが、五七五ごとに空白を入れることは可能で、入れてみると「海底が 盛り上がるあれが 曾祖祖父」になります。空白をどこに入れるかにより、読んだ感じがずいぶんちがうはずです。

3.句またがり
「句またがり」は、俳句に五七五ごとの空白を入れる習慣があると使えないテクニックのひとつです。具体例としては私の俳句「渡り廊下の左右より春の闇」。「渡り廊下の」という部分が、「わたりろう・かの」という具合に上五と中七にまたがっています。句またがりが成立するためにはいくつかの必要条件があります。日本語は「さく・ら」「げん・だい・し」という風に、2音ごとに切ることができます。しかし、「げ・んだ・いし」とか「さ・くら」という風に切ることはできません。音の切れ目と句の切れ目があってる場合にだけ、句またがりができるのです。

4.切れ字
俳句には切れが必要。一般的には「切れ字」が必要ということになっています。代表的な切れ字は「かな」「や」などですが、普通名詞や動詞の終止形を切れ字にすることもできるので、あまりこだわらなくていい。切れ字を無理に使うよりは、切れ字をふたつ使ったりしないよう気をつける方が先です。俳句の切れ字は、季語と同じで一句につきひとつ以下。「かな」と「や」を両方一度に使うくらいなら、全然使わない方がまだマシです。

5.字余り字足らず
一音くらいの字余り字足らずは許されます。字足らずよりは字余りの方がリズミカルに読めます。特に、伸ばす音「ー」・つまる音「っ」がある場合には、字余りが2音でもなんとかまとまります。「ん」がある場合にも、字余りがあまり気にならなくなります。「ん」という音は、普通の日本語の音の半分の長さしかないからです。もちろん、自由律俳句(非定型の俳句)の場合、こんなこと全然気にしなくてかまいません。

6.川柳との違い
無季口語俳句と、川柳の違いを見分けるのは、はっきり言って不可能です。たとえば「バス停の日溜まりに寄る人の列」、これは私の母の川柳ですが、「日溜まり」を冬の季語と考えたら俳句と言ってもおかしくない。というかどっちかというと川柳ではなく俳句っぽい。こういう限りなく俳句っぽい川柳がある一方、限りなく川柳っぽい俳句ももちろんあります。強いて違いをいうなら、川柳の方がわかりやすいということ、俳句の方がめちゃくちゃ解読不能なわけわかんないものがあるということくらいでしょうか。

7.俳句の非ジョーシキ、またはまとめ
どこかの生命保険会社が公募するサラリーマン川柳に実験的なものを投稿しても無駄ですし、保守的な俳句結社にいるといろいろウルサイこと言われる場合もありますが、現代詩フォーラムなら制約なしのなんでもありです。私自身、かなりゆるやかな俳句観を持っています。初心者の俳句を見て「これなんとかしてよ」と思うのは、季重なりと無駄な空白のことだけです。無季OK、口語OK、自由律俳句OK、句読点やカッコの使用OKはもちろんのこと、バレ句(エロ俳句やエロ川柳のこと)、ホラー俳句、わけのわからん実験俳句、全部ひらがな俳句、全部漢字俳句、ローマ字俳句、英語俳句、中国語俳句、行分け俳句(外国語俳句は普通行分けされています。日本語でも行分け俳句はあります)等々、なんでもありでしょくらいに思っています。顔文字使うのもありでしょう。横書きでないと使えないし、音読はできませんが。

ルールを覚えた上で、ルールを破りましょう。
ジョーシキを認識してから、ジョーシキを蹴飛ばしましょう。
以上、俳句の非ジョーシキでした。


(2004.12.24追記その2)
俳句は575の17音でできていると書きましたが、17拍でできているという方が正しい言い方です。さらに細かく私の考えを言うと、合計24個の八分音符でできていて、ふつうはいくつか休符が入ります。音符の記号を使うとこんな感じです。

♪♪♪♪♪,,,|♪♪♪♪♪♪♪,|♪♪♪♪♪,,,|
フルイケヤ,,,|カワズトビコム,|ミズノオト,,,|

♪は半拍の音、,の部分は半拍休みと考えて下さい。,が三つあるところは一拍半休みです。休符ではなく「フルイケヤァァァ」と伸ばすと考えた方がわかりよいかもしれません。そうして「|」は小節の区切りです。こうやって考えると、七五調は四拍子なんだなとわかります。休符の位置は変更可能です。なんなら休まずに音を入れてもかまいません。字余り字足らずが許されるのは、この24拍の八分音符の中でのこと。俳句も短歌も四拍子。応援の三三七拍子も、実際には四拍子です。意味がわかりにくかったらすみません。リズム感の問題です。

短歌だと、下のようになります。

例文・砂山の砂に腹這ひ初恋の痛みを遠く思ひいづる日(石川啄木)

♪♪♪♪♪,,,|♪♪♪♪♪♪♪,|♪♪♪♪♪,,,|
スナヤマノ,,,|スナニハラバイ,|ハツコイノ,,,|

♪♪♪♪♪♪♪,|♪♪♪♪♪♪♪,|
イタミヲトオク,|オモイイズルヒ,|

一見しただけだと非定型のように思える短歌の例もあげておきます。

例文・いつもだと二言、三言私語を交わす君がいないのは、今日は君の葬式だからだ
(市来勉の短歌)

♪♪♪♪♪,,,|♪♪♪♪♪♪♪,|♪♪♪♪♪♪,,|
イツモダト,,,|フタコトミコト,|シゴヲカワス,,|

♪♪♪♪♪♪♪♪|,,♪♪♪♪♪♪|♪♪♪♪♪♪♪♪|
キミガイナイノハ|,,キョウハキミノ|ソウシキダカラダ|

または、休符なしで一気に読むこともでき、そのほうがむしろ綺麗に聞こえるかもしれません。

♪♪♪♪♪♪♪♪|♪♪♪♪♪♪♪♪|♪♪♪♪♪♪♪♪|
イツモダトフタコ|トミコトシゴヲカ|ワスキミガイナイ|

♪♪♪♪♪♪♪♪|♪♪♪♪♪♪♪♪|
ノハキョウハキミノ|ソウシキダカラダ|

こうしてみると、それなりに定型だと考えることができます。でもこれはあくまで「こういう考え方もできる」という話でして、このように俳句や短歌を詠まねばならないということではありません。

思いつきで追記します。日本語の七五定型詩には、短歌・俳句の他に都々逸どどいつというものがあります。都々逸は7775の4句26音からなります。いまさっき気付いたのですが、都々逸は、面白いことに三三七拍子とリズムが同じなのです。

♪♪♪♪♪♪♪♪|♪♪♪♪♪♪♪♪|♪♪♪♪♪♪♪♪|
サクラトイウジヲ|ブンカイスレバ,|トナリノオンナガ|
イチニッサン,,|イチニッサン,,|イチニッサンシィ|

♪♪♪♪♪♪♪♪|
キニカカル,,,|
ゴォロクナナ,,|

(追記ここまで、また追加するかもしれません)


散文(批評随筆小説等) 俳句の非ジョーシキ Copyright 佐々宝砂 2004-03-08 16:51:53
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