ミクシィ
大覚アキラ

ミクシィ

禍々しい神の名前と同じぐらいの強さで
おれたちをモニターに縛りつける呪文

ミクシィ

真夜中の絶望を
たどたどしい口笛で掻き消しながら
ベランダから眺めるランドスケープ
少しばかりかっこよく言うならば
断絶した都市の景観

その上を
得体の知れない真っ黒な鳥が
翼を羽ばたかせながら
どす黒いシルエットだけになって
海のほうに向かって飛んでゆく
まるで翼竜のような凶暴さで

そうだ
凶暴さが必要なんだろう
包み込むような生ぬるさとか
侵入してくる甘ったるさとか
そういうものに犯されて
気が狂ってしまう前に
自らの手で接続を断ち切る
そういう凶暴さが

キーボードを叩き壊す勢いで
打ち込むテキストの断片

ここは砦
ここはシェルター
ここは子宮
ここはミクシィ

そう
ここはミクシィ

愛しい恋人の名前と同じぐらいの強さで
おれたちをモニターに縛りつける呪文

ミクシィ

日曜日の憂鬱を
能天気な鼻歌でうやむやにしながら
指先でステップを踏むキーボードの上
少しばかりかっこよく言うならば
もはや絶命寸前のレガシーデバイス

その上を
得体の知れない幽霊のようなものが
灰色の余韻をたなびかせながら
透き通った空気の塊になって
おれの指先をそっと包み込んでいる
まるで親友のような優しさで

そうだ
優しさが必要なんだろう
切り裂くような憎悪とか
叩きつけるような怒りとか
そういうものに傷つけられて
逃げ出してしまう前に
自らの手で接続を断ち切る
そういう優しさが

死んでしまえばいいのに
そんな言葉を口にした昨日を巻き戻して
すべてなかったことにして
もう一度やりなおそう

凶暴な優しさで抱きしめるから
すべて

だって

ミクシィが
この世から
なくなったとしても
おれはあんたと
繋がってるからさ


自由詩 ミクシィ Copyright 大覚アキラ 2006-08-15 17:51:25
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