生まれたことも忘れて
たりぽん(大理 奔)
私はあなたから生まれたというのに
もうそんなことを忘れてしまって
自分だけの死を抱きしめていた
まるで沈むために港を離れた
あのポンコツな捕鯨船
たった一つの獲物を射るための
銛
(
もり
)
を
誇らしげにかざしてはいたが
捕らえたものから流れ出す血を
いつしか忘れていた
ぬくもりを、赤いぬくもりを持った血のことを
いつだったか
その血に私は包まれていたのだった
そして
繋いでいく私は
冷たい血に包まれたりもする
私が生まれたのと同じ仕組みで
私ではないものが分裂する
未来など約束できないのに
私でないものが増殖して
でもいつしか
そんなことも忘れてしまって
たった一つの銛を舳先に
誇らしげに飾り
残り少なくなっていく獲物を
求めてよろよろと港を出る
あのポンコツな捕鯨船
生まれる前のことも知らず
私はあなたから生まれたというのに
すでにそんなことも
もう忘れてしまって
自由詩
生まれたことも忘れて
Copyright
たりぽん(大理 奔)
2006-08-08 11:58:33
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