蚊取り線香になりたい
しゃしゃり
とべない君の
飛び箱になりたい
夏のあいだの
君の上履きになりたい
君のすくうプリンの
一口目になりたい
君のぬるリップクリームの
真ん中らへんになりたい
君のさくらんぼの種になりたい
君のお風呂にとけるバスクリンになりたい
もちろん自転車のサドルにもなりたいし
セーラーのリボンにだってなりたい
君の騎士になりたい
騎士になって恐るべき敵から守りたい
君を守って死にたい
朝露に濡れて息絶えたい
君の腕の中で
しずかに微笑みをたたえて
死んでゆきたい
君の
君の
君の
君の
カレシになりたいが
そうなったらぼくの幸せと
つりあうぶんだけ
きっと世界は滅びてしまうのだから
それは
のぞまないよ
ただ君の
蚊取り線香になりたい
虫の嫌いな君のそばで
一生小さな灯りをつけて
ただぐるぐるぐるぐる
小さく燃え尽きてしまう
蚊取り線香に
ぼくはなりたい