遠い遠い、夏
海月
あれは暑い日でした
いつも通りに長い坂を自転車で下り
数十年前に廃校の中学校を横目で見る
校庭は手入れがされてなく雑草が高く伸びているが
近所の小学生が野球をする場所はなにもない
ざわめく声がすれば士気を執るのは老人
この中学校で野球をしていたと言う
仲間は皆戦争と言う怪物に飲まれた
遠い遠い、夏
入道雲が高く高く
機械鳥が地上を燃やした
練習の合い間を取って老人は話した
耳を傾ける者と嘘話と思い聞かない者
老人は何も言わずに僕を見た
僕は何も言わずに空を見上げた
遠い遠い、夏
老人が生きた世界に近づけた気がした
僕は聞かない子供達を怒った
子供達は知らん顔でその場を離れた
僕は後を追おうとした
老人は僕の腕を掴んで一言呟いた
良いんじゃ・・・良いんじゃよ・・・
老人の俯く顔の下には水滴があった
遠い遠い、夏
蝉の鳴き声が耳に残る夏でした
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