むかしばなし
佐々宝砂

わたしがまだとてもちいさかったころ
牛舎でチャボを放し飼いにしていた

あのころもたぶん
鳥インフルエンザはあった

卵を隠すチャボがいた
牧草の陰にふたつみっつとあった
探し当てるとお小遣いをもらえた

ひよこはときどき牛に踏まれた
乳牛のひづめはあれで割合とがっているので
ひよこはあっさりとつぶれた
ケチャップ入りのオムレツみたいに

大きいチャボを潰すというと
その日はごちそうだから
うれしかった
それがメスのチャボなら
とてもうれしかった
玉道が好物だった
じゃがいもとたまねぎと煮た

あのころもきっと
鳥インフルエンザはあった


玉道→たまみち。鳥の卵巣のこと


自由詩 むかしばなし Copyright 佐々宝砂 2004-03-03 16:23:54
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